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シチュエーションCDの感想を書いています。

プリンスコンプレックス・抱けないカレ 桐ヶ谷朔 

ネタバレ注意!

辛口コメント注意!

 

あらすじ

ホテルコンシェルジュとして働いていて、ホテル界の王子様として雑誌の取材を受けるほど素敵な彼のお話です。恐らく、イケメンで、スマートな身のこなしが板についている仕事のできる彼なんです。さぞかしモテモテで、プライベートも順風満帆で幸せな人生を歩んでいるのかと思いきや、彼はセックスが出来ないというコンプレックスがありました。

興奮すると手が震えたり、お腹が痛くなったりして、体のコントロールを失ってしまうようなことが起こり、セックス恐怖症みたいになっていたのでした。

そんな彼ですが、彼女と同棲しています。しかもセックスは全力で避けているわけで、まぁ、彼女に迫まられますよね。そんな恋人たちが描かれているシチュエーションです。

 

 

製品情報


 

【トラックリスト】

1 記念日旅行

2 王子様の秘密※

3 誘い誘われ※

4 翳り※

5 ふたりの部屋

6 キャストフリトーク(配信限定特典)

【作品仕様】

18歳以上推奨作品 / 収録時間:本編約70分+配信限定キャストフリトーク

【スタッフ】

イラストレーター:閏あくあ

原案・脚本:雨夜陀呂

制作:h.Adam

【リリース】

2022年10月28日

 

 

 

考察「二人は共謀関係」


 

付き合って一年目の記念旅行。彼女を完璧にエスコートして、喜ばせようといろいろ企画するシチュ彼の朔です。ヒロインを大切に思っていて、一生懸命尽くしている様子が伺えます。でもキス以上の関係になっていません。それとなく誘っても、いつもはぐらかされてきたヒロインは、ついに旅先で一緒に寝る約束を取り付けます。しかし、いざことに及んだとき、興奮した朔が鼻血を出してしまうハプニングが起こってしまいます。不安は的中し、朔は思い切り落ち込みます。

 

「だってカッコ悪いだろう!」

「君だって、雑誌に載ってるような僕が好きだろう?」

 

そんなことで嫌いになったりしないと彼を宥め、ヒロインが彼をリードすることで、やっと2人は本物の恋人になります。これでハッピーエンドに向かえばよかったんですが、ここから不穏な展開が待っています。

 

サービス業で不規則な仕事についている朔と保育士をしているヒロインはすれ違いの生活を送っているようです。朔からするとスキンシップの時間が足りなくて欲求不満がピークに達しています。そんな中、せっかく二人の休みが一緒になった日に、ヒロインは職場の勉強会を兼ねた新人歓迎会に出かけようとしてしまいます。職場の新人は男性だと知った朔は感情が爆発して、物を投げつけ、彼女を無理やり自分のものにしてしまいます。

 

愛しすぎて精神的におかしくなってしまう心情を俗にヤンデレといいますが、この彼はヤンデレというよりはメンヘラという感じがします。彼のこだわりはダサい自分が許せないことです。自己肯定感を持つことができず、ありのままの自分を受け入れられず、完璧な自分であることが生きる意味みたいになっているように思います。自己否定は心を歪ませてしまいます。仕事はできる彼なのでホテル界の王子様と言われるほど自分を作り上げて演じることはできました。しかし恋愛、ことにプライベートが晒される同棲生活に至っては完璧な王子様を演じ切ることができません。ヒロインの職場に男性が入ってきた、その歓迎会にいつもよりキレイに化粧をしたヒロインが出かけてしまう、それがトリガーとなって彼の歪みが一気に噴き出ます。

 

これは深いコンプレックスを持った朔一人の心の問題なのだろうか。その問いに違和感を持ったのはトラック3におけるヒロインの朔への態度です。トラック3は、愛し合いたいのにスマートに誘えない朔の不器用な様子が描かれています。お風呂に入ろうとするヒロインの後ろにまとわりついたり、食事中に話しかけるタイミングを探していたり、朔は必死にヒロインにアピールしているわけですが、ヒロインは気がつかないのです。そしてギリギリのところで彼に言わせてしまうのです。

 

「エッチ、したい」

「君だって分かっているんだろう」

 

このヒロインはわざとやっているんですよね。日常的に朔の気持ちや欲求を無視するという態度で、朔は一人で悩んだままに置き去りにされ、カッコ悪い自分を晒す状況に追いやられたと思うのです。つまりヒロインは朔に対して受動的攻撃行動をしている。でなければ、後の朔のヒロインへの感情爆発と攻撃的な態度は不自然です。

 

朔が感情的になってヒロインにやったことは酷いものです。しかし、朔の意地の悪さを引き出したのヒロインで、それだけ朔を追い詰めたのだと思います。それはヒロインが朔よりも悩める心を持ち、苦しんでいたからなのか、朔が満足や幸せを感じることに僻みや妬みがあったからなのか。

 

何かと「迷惑をかけたくない」と遠慮するヒロインで健気なのかもしれませんが、一方で自分の弱さやカッコ悪さを否定し、やせ我慢する心情が伺えます。それは朔の弱さやカッコ悪さを受け入れない、王子様のような朔だけを見ていたいという心理と地続きで、無意識に朔を追い詰める態度を取るだろうことは想像にかたくありません。ヒロインの心の闇が深そうで、モヤモヤしてしまいました。

 

その後、朔はめちゃめちゃ反省しますし、ヒロインも歩みよることで2人は仲直りをします。ただ、ここまで考察してしまうと、今後の二人はハッピーエンドって感じがしないんです。パワーバランス上、主導権を握っているのはヒロインで、しかもモラハラ気質です。自分の都合のいいときだけ歩み寄って、しばらくするとまた朔の気持ちを無視しそうです。これが長期に渡って繰り返されれば、朔の精神は確実に壊れる。また朔はカッコ悪い自分から目を背けている限り、パートナーに虐められていることに気づくことはないでしょう。否認という心理的防衛は現実を見えなくします。セックス恐怖症のコンプレックスを隠したまま女と付き合おうなんてするから、同じような隠しごとをする女、しかも悪意を隠している女に捕まってしまった感じがして、複雑な気持ちです。

 

ただ朔は仕事で自己肯定感を調達出来そうだし、若いから成長するし、それに引っ張られてヒロインも成長してほしいなと願うばかりです。

 

 


 

 

 CVは河村眞人さんです。この方は品のあるボイスですね。ホテル業界の王子様役はぴったりでした。しっかりとした芝居をする声優さんだなという印象で、本当の自分がヒロインに知られたら、嫌われてしまうと怯えるその心情がよく表現されていたと思います。

 R18シーンについて、河村眞人さんは色っぽいとよく言われていますが、この作品においては私はそうは思わなかったですね。リップ音だけがやたら目立っていて、なんか刺々しい態度に満ちた行為でしたね。なんか苦しそうでした。これはヒロインへの報復なんじゃなかろうか、それは惨めな愛の風景であったと、そういう芝居だったのかなと思います。

 

 R18シーンについてはいつか考察したいと思っていますが、心と身体を開いていくような官能を表現をする役者さんと、心と身体の緊張を高めて一気に解放してエクスタシーを表現する役者さんがいるような気がします。河村さんは後者です。今回はセックス恐怖症の朔を演じるにあたってより緊張感のあるR18シーンだったのかなと思いました。

 

 キャストトークよかったです。河村さんは、朔がヘタレでだめんずだと言っていましたね。河村さんなら、このヒロインを上手くコントロールするんだろうな。メンタルが強そうです。